どの企業でも、「私たちのお客様のニーズは……」という会話をよく耳にするでしょう。
さて、この「お客様」はどんな人物でしょうか。
例えば都内でカフェを経営している企業の場合、ニーズを把握したい対象の顧客は、20~30代の女性でしょうか?
近くの高校や大学に通う、学生のグループでしょうか?
それとも子連れのファミリーでしょうか?
このように、ある企業がターゲットとする顧客のイメージは、一つとは限りません。よって、マーケティング戦略を立てようとした場合、社員によってイメージする顧客が異なることは珍しくありません。
しかし、顧客像が曖昧な状態で議論を進めれば、結果として誰にも刺さらない施策が並ぶことになるでしょう。
こうした事態を防ぐために有効な方法が、セグメンテーションです。
セグメンテーションは、市場に存在する顧客を幾つかのグループに分け、そのセグメントの理解を深める手法です。
以下では、セグメンテーションを行うための基本的な方法と事例を紹介します。
企業のマーケティング担当者や経営者であれば、ぜひ押さえておきましょう。
マーケティング戦略におけるセグメンテーションとは?
自社の商品を展開する市場には、様々なタイプの顧客がいるはずです。
セグメンテーションとは、その顧客を一定の基準でグループ分けすることです。
セグメンテーションはSTP分析の1つ目の要素
マーケティング戦略を立てる際に使われる分析手法の一つとして、STP分析があります。
Sはセグメンテーション(顧客のグループ分け)、Tはターゲティング(顧客の優先度づけ)、Pはポジショニング(自社の優位な位置づけ)を指します。
STP分析はこの順序で進められ、最初に行われるセグメンテーションはマーケティングの基本といえるでしょう。
セグメンテーションの意味と目的
顧客のグループ分けであるセグメンテーションは、顧客理解を深めるために行われます。
企業がマーケティング施策を練るとき、「誰に」「何を」「どのように」届けるかを考えます。
この「誰に」を明らかにするために、セグメンテーションによって自社の顧客像をとらえ、顧客の行動や価値観について理解を深めていきます。
セグメンテーションの必要性
顧客をグループ分けすることは、誰にどのように情報(広告など)を届けるのかといった、STP分析におけるターゲティングにつながっていきます。
顧客理解を深めるための手法
「私たちのお客様」というとき、現場で接客をする職種であれば、店舗の常連客をイメージするでしょう。
しかし市場には、ECサイトで頻繁に購入する顧客、年1回必ず旅行のついでに店舗に立ち寄る顧客、特定の目的で不定期に訪れる顧客など、多様な顧客が存在します。
自社の顧客についてセグメンテーションを行い、顧客データや現場ヒアリングなど様々な方面から深掘りすることによって、「私たちのお客様」の姿がより鮮明になっていくのです。
セグメンテーションの期待効果
顧客セグメントの属性、価値観、商品の利用シーンなど特徴が明らかになると、顧客ニーズの理解が進むため、各セグメントに刺さる製品やサービス、コミュニケーションを計画しやすくなります。
また、社員同士でイメージする顧客像のブレが小さくなり、各々の知識や経験を活かした実践的なアイディアを出しやすくなるという利点もあります。
顧客セグメントの作り方
顧客をセグメントする基本的な方法をみていきます。
基本の作り方
市場に存在する顧客の切り口を決めます。
最もシンプルなのは、2軸のチャートに顧客セグメントをマッピングする方法です。
3つ以上の切り口を使ってセグメンテーションする場合は、顧客セグメントを判断するためのフローチャートを用意するなど、誰でもセグメンテーションを行えるようにしましょう。
セグメンテーション変数
セグメンテーションの切り口として使われる項目を、セグメンテーション変数といいます。
大きく以下の4つに分かれます。
- 地理的変数: 国、都道府県、気候、人口密度、文化、政策など
- 人口動態変数: 性別、年齢、職業、家族構成、年収、学歴など
- 心理的変数: ライフスタイル、価値観、好み、性格など
- 行動変数: 利用回数、利用頻度、利用単価など
セグメンテーションを行うときの注意点
適切なセグメンテーションの切り口が見つかるまで、様々なパターンを試します。
「適切な」セグメントかどうかの判断基準としては、4Rと呼ばれる以下の4つが利用されます。
- 優先度づけ(Rank): セグメント間で重要度に応じて優先順位をつけられるか
- 有効規模(Realistic): 各セグメントは十分な売上や利益を見込める規模があるか
- 到達可能性(Response): 各セグメントの顧客に商品を届けることができるか
- 測定可能性(Reach): 各セグメントの顧客の反応を分析できるか
ただし、必ずしもすべてのセグメントが4Rを満たす必要はありません。
例えば、あるセグメントが有効規模の条件を満たさないとしても、キャンペーンなどのリソース投資における優先度を下げるというビジネス判断に利用することができます。
フレームワークにこだわり過ぎず、自社で使いやすいセグメントを作成しましょう。
セグメンテーションの例
セグメンテーションを活用した企業の事例を紹介します。
ルミネの事例
ルミネの顧客を「明確な入店目的の有無×行動圏」の切り口でセグメンテーションしました。
首都圏の駅ビルであるルミネはアクセスの良さが魅力ですが、それゆえ、明確な入店目的なしに訪れる顧客も少なくありません。
普段の行動圏が都会であるセグメントほど、特に目的がなくても移動中や空き時間にふらっと訪れています。
つまり、限りあるリソースでキャンペーンを打とうとした場合、友人同士で訪れるセグメントは購入意欲が高まっており、ターゲットとして適切でしょう。
しかし、カップルや一人で訪れる顧客は直前に入店を決めている可能性があり、前々からプロモーションを打ったとしても、内容を認知していないことも十分ありえます。
今治タオルの事例
今治タオルの購入顧客を「商品購入時に重視すること×購入頻度」の切り口でセグメンテーションしました。
高品質な国産タオルとしてのポジションを確立している今治タオルの価格は、一般的なタオルに比べると安くはありません。
そのため、定期的に購入しているセグメントは品質に対する信頼が購入動機となっています。
一方、必要時だけ購入するセグメントは、誰かのために「良いもの」「一定のステータスがあるもの」を贈る目的で購入していることが分かります。
プロモーションを打つのであれば、セグメントによって揃えるべき商品の価格帯、パッケージ(ギフト用、ペア用)、デザイン性(華やか、日本らしい、子ども向けなど)に違いが出てくるでしょう。
【まとめ】顧客が求める商品とコミュニケーションの理解につながるセグメンテーション
ご紹介したセグメンテーションを行うことにより、自社の顧客理解が深まり、具体的なニーズや商品購入/利用のきっかけをイメージできるようになります。
顧客が欲しいと思う商品の開発や、心地よく感じられるコミュニケーションの計画にぜひ役立ててください。